平成6年秋、私はJR中野駅近くにあるルプラン(株)(高島恵子社長、電話03−3383−1238)を訪問した。ルプラン(株)は平成5年10月に設立された、子供服専門の通販会社である。事前情報では全くの素人がベンチャー的に通販事業を始め、一年を経過して軌道に乗りつつあると言う。どんな人達が通販を始めたのか、ワクワクして訪問して見たのだが、会社に一歩入って驚いてしまった。
とても会社とは思えない事務室と足の踏み場がないほどの狭さである。内装の壁は良く見るとベニヤ板剥き出しのようである。しかも天井までの仕切りではなく、大きな部屋の一部を単にベニヤ板で囲ったような感じなのである。部屋の真中に大きめのテーブルが1つ有り、テーブルの周りに5人の女性が座り、それぞれ電話の受話器を片手に受注作業をしていた。
狭い事務室内を呆然と見渡している私の存在に、やっと気ずいたかのように1人の女性が声を掛けてくれた。その女性が実質的な運営責任者である遠山幸子取締役であった。遠山さんは「狭くて、汚い所なんで驚かれたでしょう」と言いながらお茶を入れてくれた。そしてルプラン(株)の設立経緯と、この一年間の経過を話してくれた。私は、とりあえず社長さんにご挨拶したいと申し出ると「実はこの会社の高島社長は、(株)エムティというビルメンテナンス会社の重役なんですよ。普段はそちらの会社の方で仕事をしていますから、ルプラン(株)には常時いません。」という答えが帰ってきた。
「この事務室はその(株)エムティの倉庫の一部をお借りしてるんですよ。まだまだ立派な事務室を借りられる程儲かってませんから。」とニコニコ顔で話す遠山さんの目は生き生きと輝いているように見えた。
ここまでの話で、室内に社長用らしき机が無い理由が判ったし、ベニヤ板の間仕切りの後ろ側に見える、バケツやデッキブラシの意味も判った。出来るだけ経費を掛けずに辛抱している姿を目の当りリに見て「この会社はイケル」と私は感じた。
しかも、この事務所は設立時から数えて3箇所目で、随分とましになった方だと言う。「まともな家賃を払うお金が有ったら、1回でも多く広告を出したい」と話す遠山さんの目の中には炎が見えた。
新規事業の立ち上げ時に、姿、形から入る経営者が多い中で「今は我慢しよう」「儲かったら・・しよう」のハングリー精神は成功の第一歩ではないだろうか。
高島社長もコンピューター導入時には、1円でも安いパソコンを買うため、自分で秋葉原まで出かけ、骨董品のような古いモデルをただ同然で買い揃えた。専門家の私が見ても、こんな古いパソコンが、まだ有ったのかと思うようなパソコンである。
たまたまこの時期、私の知り合いの人が化粧品通販会社を脱サラし、独立して化粧品通販会社を開業していた。まだ1円の売上も無い当初から、JR吉祥寺駅近くの新しいビルに、立派なオフイスを構え、月40万円の家賃を払っていた。事務員とも愛人ともつかぬ若い女性を置き,口から出る言葉は甘ちゃんの話ばかりで、大いに心配していた所であった。同じ通販事業を立ち上げるにも、随分と取組み姿勢が違う。
高島社長と遠山さんの取組み姿勢を見て、なんとか応援してあげようと思ったのは、私だけではなかった。
通販事業は自社だけで全ての仕事をこなす事は出来ない。印刷会社、広告代理店、メーカー、カメラマン、コンピュータ等各方面に協力会社が有って成り立つのである。高島社長と遠山さんの姿勢は、そんな協力会社を1社又1社と応援団にしていった。しかし、設立当初からここに至るまで順風に来たわけではなかった。遠山さんも実は姿、型から入った一人であった。
「通販とはこうでなければならない」「通販はこう言う型だ」「子供服とはこう言うものだ」という机上の観念で始めた。つまりは、「電話はフリーダイヤルでなければならない」、「振込み手数料は会社持ちが当然である」「カタログはお金がかかってもこう有るべき」等である。
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